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新しい時代
2005年11月22日
 
ナマ録というと録音機はDATというのが常道だったが、長かった歴史もその末期を迎えた感がある。まだまだ現場では頑張って行くと思うが、新たな購入の対象とはならないだろう。かといってメモリーレコーダーが今すぐDATに取って代われるのかといえばなかなかそうでもないようだ。おそらく生録ファンの多くはこのスペックに不満と不安を感じるはず。メディアがメモリーやハードディスクに代わるのは変えられない流れだが、DATとこれらの新しいメディアとの間には少しばかり空白の期間が入り込んでしまうことになりそうである。DATとメモリーレコーダーがしばらく並行して共存。メモリーレコーダーの優位性が確実になった時点で徐々に、あるいは急激に移行というのが理想だが、どうもそうはならないようだ。
そんな中でTDC−D100の製造中止である。ナマ録のファンでこの機種を愛用している人は多い、というか小型・軽量・高音質・長時間録音可能という要望に応じられるのはこれくらいのもの。いよいよDATの時代も終わりを告げるということである。同時にこれからナマ録を始めようという人にとっては録音機の選択肢がなくなったことを意味する。先の短いことを承知で生き残り(というか売れ残り)のDATを購入するか、先行きの不明なHiMDを選択するか、ある程度不満を承知の上でメモリーレコーダーを選ぶかといったところ。そんなことを考えているうちに、突如PCM−D1の発表である。ナマ録にとってこのメーカーが動き出したという意味は大きい。記録メディアは内臓の4GBフラッシュメモリー、高性能のマイクを装備して、96kHz24bitで約2時間、48kHz16bitで約6時間の録音が可能。チタンボディーにアナログメーターと、かなりエキセントリックな仕様である。
これは録音機というよりも、レコーダーつきのマイクという感じだ。とにかく手軽に高音質のナマ録を体験してもらいたい。ナマ録は無くなってしまったわけではなく、現在でもそれなりの安定した需要はある。それどころか積極的にナマ録人口を増やしていきたいというのがメーカーの考えなのだろう。あるいはプロの用途も視野に入れているのかも知れない。従来はマイクと録音機を持ち歩いていたロケーション録音が、ほぼマイク1個分だけという手軽さでしかも高音質の録音ができるとなればメリットは大きい。
あまりにいろいろ盛り込みすぎた感はあるがまずはデビュー作である。メーカーの意気込みを感じさせる久しぶりの製品だ。
意外だったのは予想外に消費電力が大きいこと。単三型のニッケル水素電池4本で4〜5時間の録音が可能、TCD−D100と比べるとほぼ2倍の消費電力である。電力を大量に消費する駆動部分がないのでさらに省電力化すると思っていた。これは少々期待はずれ。将来的にはもっと改善されると思うが、メモリーに書き込むまではDATと同じはず。そうすると記録メディアが改善されないかぎり、バッテリーの問題も解決されないということなんだろうか。改善ということは将来記録メディアの変更もありということだ。
重量と大きさもTDC−D100に比べて軽量化、小型化されていないのは気になるし、内臓マイクも当方には無用だが、これは今回メーカーの意図ではない。しかし録音時間の点では大いに不満がある。48kHz16bitで約6時間、96kHz24bitで約2時間というのはナマ録用としてはあまりにも短い。1日程度ならともかく、数日あるいは1週間程度の日程を考えると明らかに不足である。現状での実用性を考えると圧縮機能も搭載してほしかったところだ。
いろいろ不満もあるが、とりあえずはメーカーの意気込みを示す第一作。これが標準機になるとは考えがたいし、メーカーもこのままにしておくはずはない。ファンタム電源を備えたプロ仕様の大型機と、携帯性を重視したナマ録用の2本立てになるのか。あるいは小型機2機種くらいになるのか。出揃うのは数年後と思うが、大いに期待しているところである。
というところで他のメーカーはと眺めてみるとFR−2はすでに発売以来1年半、大まかなスペックでは特に大差はないが、バッテリーの持続時間は単三型のニッケル水素電池8本で2.5時間とかなり短いのは気になる。やはり時代の差?。後続機の発売が待たれるところ。いっぽう新しく登場予定のHD−P2はファンタム電源内蔵の大型機だが、デザインと操作性の良さはDATのDA−P1を継承。192kHz24bit対応。バッテリー駆動時間も単三型のアルカリ電池8本で5時間、ニッケル水素電池だとさらに2倍くらいにはなるので実用上は十分。ただやはり問題はメモリー。録音時間には不満がある。MicroTrack24/96は高スペックで小型軽量、ファンタム電源内蔵、MP3にも対応しており価格も安いので、サブ機として大いに興味をそそられるが、ファームウェアの安定性にまだ少し問題があるようだ。
しだいに出揃ってきたメモリーレコーダーであるが、新しいメディアにもかかわらず、というかそうであるからこその将来的な不安もある。ナマ録用として使うとなると5年10年といった単位である。それだけの時間が経過した時点で、購入時のメモリーやUSBインターフェースが使えるのか、となるとこれは非常に疑問だ。そういった意味では、メモリーは十分な量を最初から内蔵したほうが良いのか、あるいは将来の変更に備えて何か中間的なインターフェースを介して接続したほうが良いのか。USBに関しても同様である。はたして10年先にそれらが存在しているかというとはなはだ心もとない限りだ。オーディオのデジタル出力、またはアナログの出力があるに越したことはないだろう。
ところでいったん録音したものは何かに保存しなければならないわけだが、現在のところ対象としてはハードディスク、DVD−Rくらいのものである。CD−Rでは容量不足。しかしハードディスクは消耗品、せいぜい寿命は連続で2年くらい。家庭で使用するパソコンの場合でも4〜7年程度だろう。コストパフォーマンスとしては悪くはないし、容量にはまったく問題はない。保存作業としても一度ですむし、編集にしてもそのままできるので便利だが、なんといっても信頼性に乏しい。これに永久保存しようという勇気のある人はいないのではないか。DVD−Rは容量的には不満はないが、場合によってはちょっと面倒になる。長時間連続して録音したりすると具合よく入りきらない場合が出て来るからだ。こうなるとファイルを分割結合して保存し、あとでパソコンに取り込むときに再び分割結合するソフトが必要になるだろう。編集するにしてもいったんパソコンに取り込まなければ高速にはできないし、転送速度もハードディスクに比べると遅い。そもそもDVD−Rがどのくらいの寿命があるのか。DATはすでに登場以来20年近い。手持ちのテープも15年経過したものがあり、とくに問題なく再生は可能だ。CD−RやDVD−Rの寿命はまだ不明の部分がある。記録媒体は染料である。直射日光に長時間当てると再生不能になるという話もある。キズなどにより再生不能となる心配もあるし、そもそもメディアそのものが存続しているのかという心配もある。というわけで定着保存するメディアについても不安の要素には事欠かないのが実情だ。
それ以前にWAVEファイルやフラッシュメモリーの2GBの壁がある。単に録音する上で重大な支障があるわけではないが煩雑である。これが解決されるのは少なくとも数年先、もしかすると4〜5年先になるかもしれない。メモリーレコーダーはまだ過度期の真っ只中にある。
とはいえ、とにかくスタートを切ってしまったメモリーレコーダーである。あとは見守っていくしかない。実をいうとメモリーレコーダーの登場によって、ナマ録はより活性化するのではないかと期待しているのである。
 
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