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ナマロク機の未来
2005年1月22日
 
今から20数年の昔、生録のブームがあった。もちろんカセットテープレコーダーが中心である。しかしその頃はまだ当方とは無関係。横目でみて暮らす日々であった。やがてこのブームも終わりのころ、最初の本格的なポータブルタイプの録音機を手にすることになる。TC−4550SDである。なぜか据え置きタイプはどうしても買う気にならなかった。この機種を含め、それ以前も以後も、録音機はポータブルタイプしか購入していない。ただしこの機種は本来の屋外用としてほとんど使われることもなく、短い不幸な運命を辿ることになった。そしてつぎの録音機の購入は、DATの登場まで長いブランクを経ることになる。
最初のDATはTCD−D3、本格的に生録用として使い始めた最初の機種である。その後4台のDATを経て、現在の6代目TCD−D100に至っている。一時期5台のDATが手元にあって動いていたわけだが、そうして得た教訓はDATは2台もあれば十分ということ。絶え間ないバッテリーのトラブル、メカのオーバーホールと、心と財布の休まる暇がない。とても面倒見切れたものじゃないのである。結局現在まで生き残っているのは3機種のみ。その後MD2台が加わって今日に至っている。
と言うわけで今のところ生録用としてはDATが中心で、その中でもTCD−D100がメイン。MDは小型のマイクと組み合わせて気軽なサブ機となっている。これで一応やりくりしているわだが、不満がないわけではないし、将来的に考えると不安もある。
DATについていうと、やはり信頼性の問題である。早い話テープトラブルが多いのだ。買ったばかりのDATに新品のテープを入れて録音してもドロップアウトが発生することがある。使い込んでいくとそのうちテープの最初の部分で頻発し始め、やがて全体に及びついにメンテナンスに出すことになる。そこまでいかなくても、もともとデーター自体のエラーが多い。音声データをパソコンに取り込むさいにもリアルタイムでしか転送できないのでたいへん時間がかかってしまう。例外はあるがフォーマットもハイビット・ハイサンプリングレートに対応していない。将来的に見てDATは先細りの状態にあるといっていい。当分は屋外や大型の機器を持ち込めない場所での録音用として使われるだろうが、そのうちハードディスクレコーダーに取って代わられるのは目に見えている。
一方手軽なMDの方だが、こちらはトラブルか少ない代わりに、圧縮という音質上の制限がある。通常の楽音の録音にはCDやDATと比較してほとんど遜色のないMDだが、環境音などを録音しているとしばしばこの問題にぶつかってしまうのだ。特に立体音響の環境音というのは予想外に厳しい音源なのである。Hi−MDも登場しているものの、まだ生録用として定着するには至っていない。こちらは非圧縮での録音も可能、しかしDATと比較して時間的に今一つ中途半端で、メディアの価格の上でも今のところメリットは少ない。むしろ圧縮を前提として、高音質で長時間の録音ができるメリットを最大限に利用するほうか良いかもしれない。こういう長時間の録音を必要とする用途は意外と多いはすである。
現在の録音機を一通り眺めた後で気になってくるのは、現在再生専用機として登場している録音メディアである。その一つはメモリー、もう一つはハードディスクだ。ただしそのほとんどがもっぱらパソコンからデーターをダウンロードする再生専用機で、マイク入力を持ったものはまだない。しかし注目すべきは小型軽量さとその記録時間である。いずれもDATに比べても格段に小型である。記録時間もメモリーの場合256MB〜512MBを搭載していて、MD程度のクォリティーで2.5時間〜5時間程度。ハードディスクの場合は20GB搭載で、CDのクォリティーで30時間程度の記録が可能である。バッテリーの容量にも制限を受けるが、連続してこれだけの長時間の記録が可能というのはこれまでになかったものだ。さらにフォーマットが選択できるというのも便利である。テーターの信頼性も極めて高く、パソコンへのデーター転送も高速である。
メモリーについては現在非圧縮で録音する本格的なレコーダーが登場しているが、メモリーが非常に高価、録音時間が短い、かなり大型であることなどあって、屋外で気軽に使うには躊躇してしまう。やはり現在の状況では圧縮を前提として小型軽量と長時間録音可能なメリットを生かすべきだろう。バッテリーや録音メディアを交換することなく、録音時間を気にしないで一日中でも録音できるというのは、実は大変気軽で便利なことなのである。
一方ハードディスクについては、非圧縮で録音しても十分すぎるほどの容量がある。大きさの面でもかなりな小型化が可能だ。現在ある再生専用の機種ではすでにMDよりも一回り小さい。本格的なマイク入力をもつプロ用の録音機として登場したとしても、DATと比較してかなりの小型化が望めるはすだ。
さらにメモリーベースの録音機は動作音が全くしないという他にはないメリットがある。これは小型マイクとワンセットにして、人の手の容易に届かないような場所にセットし、長時間録音するという使い方が可能だ。そうなると、好きな時間に自動的に録音を開始し停止してくれるプログラムタイマーや、ワイアレス式のリモコンも必要になってくる。
とにかく録音機の小型化、長時間化、省電力化、静音化はナマロクの可能性を大きく広げてくれそうである。
しかしそういいことばかりではない。これらのメディアに特有の不安もある。ひとつは録音の結果がそのつど何らかの物質的なものとして残らないということである。DAT、カセットテープあるいはMDだと、一定時間ごとに物質的なテープ、またはディスクとして残る。しかしメモリーベースやハートディスクベースの録音機では内部に記録されるのみで、最終的に取り出して何らかのメディアに定着させるまて、目に見える物質的なものとしては存在しないのである。これは結果か物質的なものとして残る、今までのテープやディスクに馴染んだものにとっては不安である。
とくに長時間を費やしてデーターをしこたま溜め込んだ録音機が致命的な障害を受けると、これまでに録音したテーターが一気に全滅するという泣くに泣けない目にあう可能性がある。メモリでは比較的安心だが、ハードディスクの場合には衝撃に弱くしかも寿命がある。自分自身や身の回りでハードディスクのクラッシュを何度も経験した人は少なくないはずだ。もちろんプロ用の信頼性を要求される機器では内部で別のハードディスクにバックアップが取られるだろう。しかし安価な民生機ではそんな贅沢はできない。結局安全を見て定期的な交換ということになるのだろうが、常に不安を抱えていることには変わりがない。さらに落下による破損や盗難ということもある。瞬時にしてすべてのデーターを失う可能性はこれまでのメディアに比べてはるかに高い。
またどのようにデーターを保存するかということも煩わしいことの一つである。録ったら録りっぱなしのDATやMDに比べるとかなり面倒である。保存の対象となるメディアは今のところDVDくらい。とにかくパソコンを一度経由することになる。メディアに収まりきらない長時間のものは編集して分割しなければならない。いくらデーターの転送が高速だとはいえ、かなり時間のかかる面倒な作業だ。
いずれにしても今後メモリーやハードディスクが録音機のなかで大きな比重を占めてくるのは間違いない。不安でもあるが、また楽しみでもあり、ナマロクの世界を大きく広げてくれるものとして大いに期待もしているのである。
 
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