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人は同じ音を聞いているのか?
2003年11月16日
 
オーディオでは人によって機器の音質評価が違うことは、ごく当たり前のことと思われている。
人間の好みは十人十色。だから違うのだと言ってしまえばおしまいだが、でも本当にそうなのだろうか。もしかすると本当に違う音を聞いているかもしれないのである。
そもそも同じ音とはなんなのか。音をどう感じているかといった主観的な問題は比較すること自体不可能だが、聴覚の特性や劣化などは一応測定することができる。
そこまでいかなくとも、どのように音が聴覚器官に入って来るかといったことについては比較が可能だ。
ただしこれは基準がなくてはこまる。仮に各人が自然環境の中の同じ場所で同時に音を聞いている時を、同一の音を聞いているのだと仮定しよう。かなりいいかげんな設定だが、こうでもしないと話が始まらない。
ここで再びオーディオの話になる。ペアスピーカーによるステレオ再生だ。ステレオではリスナーを頂点とした二つのスピーカーの角度は40度から60度くらいにとるのが普通。左右のスピーカーからだけ音が出ていて、スピーカーの位置にそのまま定位する場合は問題ないのだが、困るのはスピーカー以外の位置に定位する音である。
二つのスピーカーの間に定位するのはまだい良いほうで、スピーカーの外側や、上下、さらには頭上にまで定位することがある。こうなると、他人が同じ音を聞いているのかどうか、ちょっとばかり怪しくなってくるのである。
確かめてみよう。
たとえばスピーカーのちょうど真ん中に定位する音である。左右のスピーカの音はそれぞれ右の耳と左の耳に入ってくる。これだけなら別にかまわないのだが、問題は音が音源の実在しない空間に定位するということである。人間の聴覚は音のやってくる方向によって異なる周波数特性をもっている。そこで実際の音源の方向と仮想音源が定位している方向との周波数特性の差は、音質の変化として認識されることになる。ところが耳や頭部の形は人によって異なるので、この周波数特性の差は人によって異なることになる。
他人は同じ音をきいているわけではないのである。
ただステレオでは左右両方のスピーカーから音が出ていてそれが干渉するので、少し問題が分かりにくいかも知れない。話をもっと簡単にしてみよう。
一つだけのスピーカーによるモノフォニック再生である。一般にはモノーラルとも言うが、スピーカーで再生する場合はモノフォニックと言うのが正しい。
仮に仮想音源がスピーカーの上方に定位するものとしよう。そんな事があるのかと思われるかも知れないが、鳥の声や雷鳴、航空機の音といったものは比較的安定して上方に定位する。
この場合実際の音源の方向と、仮想音源の方向とでは人間の聴覚の周波数特性はとうぜん異なっているのである。しかし実際の音源はスピーカーの所にあるので、仮想音源の位置での周波数特性との差が音質の変化として感じられるようになるのだ。
この周波数特性の差は耳や頭部の形によって異なるので、同じ音が耳に入っているにもかかわらず、人それぞれに聞いている音は別々という事になる。
これを避けるには仮想音源の位置と実際の音源の位置を一致させるしかないのだが、それは実際の空間に存在している音の波動をそのままリスナーの回りに再現する事であり、残念ながら現在の技術では不可能に近い。
同じ装置で同じように聞いているのだから同じ音が聞こえているはずだ、と普段なんとなく思い込んでいるが、こうして考えてみるとなんだかとても怪しくなってくるのである。
 
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