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デジタル録音すると楽器の音程が変化する
2003年11月9日
 
ずっと以前、まだCDが世に出てからさほど間もない頃の話しである。
買ってきたオーディオ誌を眺めていて、あるページをめくった瞬間、その過激な内容になけなしの理性がぶっ飛んだ。
なんと「CDでは楽器の音程が変化する」というのである。楽器はたしかギターだったと記憶している。
CDといえば、その時間精度は水晶発振器の時間精度と同一のはず、それはないだろうと瞬間的に考えた。
しばらくしてから、本当にそんな事があるのでしょうか、と読者からの質問があった。あるオーディオ評論家がそれに答えていたが、やはり時間精度の高いCDでそんな事はあるはずがない、という答えだった。
世間からは完全に無視されたらしく、その後同様の記事にはお目にかかっていない。
この記事は当時新聞にも発表されていたようなので、これを書いた人は致命的に信用を失ったのではないかと思う。
しかしこの主張にはどこかひっかかるものがあった。なんの根拠もなくこれほど非常識なことを言い出すはずがないということである。なにせCDプレーヤーの時間精度はアナログディスクに比べて桁違いに正確なのだから。
それ以来長く忘れていたが、ふとある時もしかするとこれは本当かもしれないと考えるようになった。
理由は二つある。
一つは「周波数=音程」ではないということ。もう一つは基音や各倍音は単一の周波数成分から出来ているのではないということだ。
音程を決める要素は一つではなくいくつもある。基音の周波数、倍音の構造、基音や各倍音の周波数成分、音が発せられてから消えるまでの時間的な変化などである。
音程が基音の周波数で決まる事はよく知られているが、基音の周波数が一定であっても、倍音の構造によって音程は影響を受ける。よい例がピアノである。
ピアノではとくに高音部の倍音構造が基音の整数倍にはなっていない。ピアノの音程は基音とすべての倍音成分を総合的に評価した結果なのである。このためピアノは1オクターブで基音の周波数が倍とはならない。そのように調律されるのである。
このような現象はピアノに限らず、多かれ少なかれ全てのアコースティックな楽器にあるものだ。とくに非線形性の要素の強い振動系を持つ楽器では発生する可能性が高い。
こうした楽器では基音や倍音の各成分のレベルが変化することで、総合的な音程の評価に変化が起こることになる。
さらにアコースティックな楽器では、基音や倍音のそれぞれの成分が、単一の周波数成分でできていないという事がある。たとえば純粋な楽器ではないが、口笛がそうだ。単一の周波数のサイン波を合成したものではなく、一定の周波数の広がりをもったノイズの集合なのである。シンセサイザーの口笛は、しばしばバンドパスフィルターでノイズを切り出して作られる。
これもその周波数成分が変化を受ければ、周波数分布の中心が移動し、とうぜん音程が変動することになる。
楽器音の時間的な変化もまた音程にかかわってくる。時間と共に基音や各倍音の周波数、強さ、周波数成分は変化しているからだ。また時間的なレベルの変動は周波数の広がりをもたらす。ここでも音程が変化を受けることになる。
一般には認知されない現象だが、当時のCD、CDプレーヤーの音質が、アナログディスクのそれに比べてかなり低かった事を考えると、あながちありえない話しではないような気がしてくるのである。
これは単にCDプレーヤーだけではなく、アンプやスピーカーでも発生する可能性がある。カタログ的なスペックで評価できないオーディオ機器の音質や音場の変化など、その要素は決して少なくないはずだ。
一見非常識極まる意見も、地道に考えると、理路整然と説明がつくのだから不思議なものである。
質の悪いCDプレーヤーも昔の話、今となっては確かめようもないし、口にするのさえはばかられる禁忌の話題だが、あらためて検証して見てもよい気がする。
ところであなたの装置・・・、楽器の音程が変化していませんか?
 
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