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デジタル録音機は本当に信頼できるのか?
2003年10月12日
 
屋外でナマロクというと、たいていはDATがお供をすることになる。問題はこのDATの信頼性だ。なにしろ屋外なので気象条件もさまざま。時には出来の悪い湿度計が100%を超える雨の中での録音もあるし、夏の炎天下で地面に置いておかなければならないこともある。冬はもちろん氷点下の気温である。肩に掛けて歩きながらの録音もしなければならない。
しかしこれらはある程度の対策が可能なので、前もって準備をしておけばそれほど問題ではないし、仮に起こってもたいていその場でなんとかなる。事実、気候が温暖なせいもあって、こうした原因によるトラブルに見舞われた事はない。
むしろ録音を中止しなければならないようなトラブルは、バッテリーとテープの走行不良の方にある。両方とも思いがけない時に起きるので、はなはだ具合が悪い。
前回までは何も問題がなかったバッテリーをフル充電して持って行くと、あっというまにバッテリー切れである。しばらく使っていないバッテリーや、買いたてのバッテリーも危ない。こうした経験は一度や二度ではない。特に機器専用のバッテリーでこうしたトラブルが多い。
予備のバッテリーを十分に持って行けばいいようなものだが、バッテリーは結構重いので最小限しか持ち歩かない。それにあまりたくさん持っていても充放電の管理がまともにできないのである。これは結局バッテリートラブルの温床になる。だいいち専用バッテリーって高価なのだ。
テープの走行トラブルも多い。たまに音がとぎれるなんていうのは良いほうで、録音の間中周期的に発生する事もある。とくにテープの最初の部分での発生が多い。トラブルの発生は機種によってかなりの差があるが、小口径のシリンダーヘッドのもので多いようだ。こちらの方はバッテリーとちがって、ある程度前兆があることもある。ただテープとの相性などでたまたま発生することもあるので、たいていそのまま放っておくことが多い。これがいつのまにか進行して悲惨な結果になる。家に帰って聞いてみるまではなかなか分からないのだ。
走行のコントロールができなくなるというとトラブルもある。録音中にいつの間にか止まっていたり、早送りが出来なくなるので、これも大変困るトラブルだ。危ないと思ったら早めにメンテナンスに出すのが最善の策のようである。
もうひとつ気になるのが、録音されたデーターの信頼性である。これはデジタル音響機器が出始めた頃、データーが劣化しないというのが一つのキャッチフレーズになっていた。万一データーが壊れてもエラー補正で正常に戻るし、さらにはデーターの補完というのもある。しかしデジタル機器はアナログ機器と違って、データーの壊れ方もデジタル的、壊滅的である。壊れる時は突然バリバリとくる。補完さえ不可能になってしまった部分は、もうノイズで使い物にはならない。
そこまで行かなくても、劣化は常に発生しているはずである。以前DATで信号の劣化について実験した事がある。やり方は簡単で、パソコンのハードディスクレコーディングソフトで1秒程度の間隔をもったフルビットのインパルスの列を生成、これをデジタル信号でDATに録音、再びデジタル信号でパソコンのハードディスクレコーディングソフトに取り込んで波形の変化を見るというもの。
しかしDATに録音した段階で再生してみて驚いた。プチプチと規則的に同じ調子で再生されるはずのインパルスがまるでバラバラなのである。一瞬茫然自失、狐につままれたような気分になったが、よく考えて見ればDATは非圧縮だからデーターが変化することはないはず。
さっそくDATからパソコンに取り込んで波形を見てみて驚いた。インパルスの間隔こそ一定だが、レベルはほとんど原型を保たないような状態である。まともなデーターの方が少ないくらいだ。ヘッドのクリーニングをしても変わらない。2機種のDATで試したが結果は似たようなものだった。とくに一つは買って間もないものだったので、ヘッドの劣化が原因とは考えられない。
以来デジタル録音というものをあまり信頼しなくなった。最近CDなどではこうした直接目に見えない劣化は当たり前のものとして受け取られているが、当時はかなりショックだったのである。
解決方法は三つある。一つはエラーの少ない録音メディアを作ること。これは劇的な改善は期待できないし、高価になる。それにメディアの質だけかエラーの原因ではない。
二つ目はメディアのフォーマットを変更しエラー訂正を強化すること。これも新しいメディアを別に立ち上げるようなもので、実現の見込みはゼロである。
三つ目は現在使われている中で、エラーの少ないメディアを使うか、強力なエラー訂正をもつメディアのファーマットを使うことだ。早い話がパソコンの音声ファイルである。プログラムを起動するたびに暴走しないところをみると、エラーは極めて少ないはずだ。
対象となるメディアはハードディスク、DVD−Rである。ハードディスクは数十GBは当たり前、DVDも容量的にはまったく問題ないが、困るのが電源だ。いずれも消費電力は大きくポータブル機には向かない。それに振動に弱いということもある。FATでも飛んでしまったら一巻の終りだ。復旧は難しい。
ただパソコンのファイルなのでアクセス性は極めてよく、瞬時に任意の場所を再生できるし、編集も思いのままである。DATとちがってデーターの転送も極めて高速だ。こうした問題が解決されれば屋外で使う録音機としてはかなり有望である。
 
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