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2WAYマイクロフォン
2003年10月7日
 
オーディオでいつも気になるのがソースの音の荒れ、中でも合唱やボーカルの荒れである。とくに声を張り上げた時がひどい。荒れるというよりは歪んでいる、ビリついているといったはほうがいいくらいだ。これは再生する装置の善し悪しにはほとんど関係がない。
いったい何なのだろうと昔から考えていたのだが、最近どうもマイクのせいではないかと確信するようになった。
人間の声のダイナミックレンジは想像以上に大きいのである。平均的な音量は一見小さくみえても瞬間のピークは極めて大きい。そこでマイクの許容入力を越えて歪んでしまうのである。
ただしポピュラーのボーカルは別。歪むことはほとんとほ皆無である。かなり近接して収録しているはずだが、たぶんマイクが違うせいだろう。ポピュラーのボーカルの収録によく使われるダイナミックマイクの耐入力はコンデンサーマイクとは比較にならないほど大きいのである。あるいは声の質、声量の差もあるのかも知れない。
とにかくポピュラーのボーカルを除けば、まともな録音にはほとんどお目にかかったことがないのである。
人間の声、それもソロボーカルでこの有様なのだから、広大なダイナミックレンジの環境音に耐えられるのか心配である。破裂音、爆発音、衝撃音など、人間の最大可聴音量を越える音源は少なくない。事実これらの録音は困難だ。
もっとも実際録音してみると、不思議とうまくいくことも多い。マイクも録音機も過大入力でクリップし、盛大に歪みまくっているはずだが、強烈なピークに隠れて歪みはほとんど目立たないのである。しかしこれでは本当の音ではない。
もう一つ気になるのは、16bit、48kHzという一般的なDATのフォーマットそのものである。これは環境音を録音すると欠点がじつに良くわかる。
メインとなる音のピークにレベルを合わせると、バックグラウンドのノイズは最低でも40dBから50dB低くなるのである。こういったことは珍しいことではない。条件が悪ければさらに10dBから20dBは低くなる。録音機のピークメーターに何も表示されない時さえあるのだ。
環境音というと主題となる音だけ考えがちだが、じつはこのノイズが意外と重要なのである。
風景に例えれば、主題となる音は道案内の立札のようなもの。言ってみればこれはなくてもがなの、いわば単なるお飾りのようなものだ。
しかしバックグラウンドノイズはそこから続く風景、というよりも音の作リ出す世界そのものなのである。いくら面白い主題だといっても、ものの5分も聞いていればすぐ飽きてしまう。ここで待ってましたとばかりに登場するのがバックグラウンドノイズだ。主題に飽きたリスナーの興味は徐々にこちらに移っていくのである。バックグラウンドノイズがリスナーの興味を支えきれるかどうかでソースの善し悪しが決まってしまうといってもいいほどだ。
しかしこのノイズ、−40dBから−50dBといえば8ビットの世界。もはやオーディオとは無縁である。このあたりを正確に再現しようと思えば最低16bit、あわせて24ビットのフォーマットが必要だ。
しかしこれだけのダイナッミクレンジを一つのマイクロフォンだけで捉えようとすると、マイクの耐入力、低レベル時のノイズの点で無理がある。そこで2WAYマイクの登場である。
2WAYといっても周波数帯域を分割するわけではない。入力レベルを分割するのである。8bitから16bit程度の感度差をもつ低感度高耐入力のマイクと高感度低ノイズの2つのマイクを近接して組み合わせ、それぞれ別のチャンネルにマルチトラックでデジタル録音。あとでパソコンに取り込んで合成、というより一定のレベルを堺に瞬時にクロスフェードを行うのである。もちろんレベルは合わせは自動だ。これを24bitまたは32bitのフォーマットに落とし込む。これで極めて広いダイナミックレンジを、ノイズや歪みの心配なく録音することができるわけだ。
だだしこの方法がうまくいくためには、いくつかの条件が必要である。まず2つのマイクはできるだけ接近して配置されていること。同軸配置にするか、できれば同じ振動板を共用するのが望ましい。マイクの音質もできるだけ類似していることが必要だ。さらに高耐入力のマイクが大入力で歪まないことはもちろんだが、小入力用のマイクは微少音量を正確にとらえられることと、大音量でいくら歪んでもかまわないがとにかく絶対に壊れないことが必要である。
かなり面倒な条件だが、実現は不可能ではないはず。また2つの信号の合成もそれほどパワーを必要とする処理ではないので、マイクアンプにプロセッサーを登載して、リアルタイムに近い処理もできると思う。
環境音はもちろんのこと、結果を予測できないイチかバチかといった出たとこ勝負の録音にはピッタリだろう。ハイビット・ハイサンプリングのマルチチャンネルの録音機が登場している現在、実用性は高いと思う。
そんな事はとっくに考えてるよ、と技術者の方に怒られるも知れないし、すでに特許も出願されているかも知れないが、常にダイナミックレンジの大きな音源と付き合っている立場から、敢えて提案してみた次第である。
 
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