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夏の風を追って
2007年8月11日,12日
7月の終わりの涼しさもどこへやら。8月も中旬に差しかかるころになってやっと待ちに待った真夏日がやってきた。本当に夏らしい夏。連日30℃を越える暑さだ。とはいえ去年に比べてまだそんなに厳しいわけではない。わが家の極悪猫も暑さにめげず快調だ。
またまた突然だが8月11日、12日と出かけることになった。なんでまたこのクソ暑い時期にというと、これは単に時間が取れただけという理由。お盆休みにかかるので旅行客も多く、カメラマンも大挙してやってくるはず。それにこの期間はC571とC56160の重連運転である。これは録音にとって悪い条件ではない。実は7月の終わりにはすでに予定は決まっていたのだが、お盆前で所用に追われて時間が取れず、いつも通り行き先を決めて地図を用意しただけ。一向に進歩がないのである。
訪ねるのは渡川、仁保、篠目。仁保は午前の下りを山線側で、渡川と篠目は午後の上りを、どちらが先になるかはその日の気分しだいということになった。渡川は初めてだが、ここを選んだ理由は停車駅であるとか特に条件が良いとかといったことは何もない。単なる気まぐれである。強いて言えば路線と平行して走る国道との距離がある程度取れるので多少はましということくらい。逆に騒音を遮断する山や建物がほとんどないので、逃げ切れない可能性もある。
午前11:04出発。今回は乗り換えの時間をあまりとっていない。駅がすっかり改装されているので前日に確認しておいたのは正解だった。無事新幹線のホームに着いたものの、やってきた列車に驚いた。デッキまで満杯の鮨詰め状態。お盆の帰省客である。これは予想していたので荷物は最低限にしておいたのだが、それでも軽くはない荷物をずっと肩にかけたまま身動きの取れない、なかなか疲れる旅になった。新山口で山口線に乗り換えて渡川に向かう。
Sample1.mp3 1分46秒 2.03MB 18:00を少し過ぎだ頃合であたりはすでに薄暗い。数箇所から聞こえてくる雀脅しはどの辺りにあるのか見当も付かない。人工ヘッド"Alqays"とTCD-D100で録音。(すべての音響効果をOFFにして、ヘッドフォンでお聞き下さい / Please turn off all of sound effects and use a headphone)
14:21渡川着。実際にホームを降りてみると、以前列車の中から何度か目にした、山に囲まれた静かなこじんまりとした風景とは少し印象が違う。路線の東西を県道と国道の結構大きな道路が走っていて意外と開放された感じの場所だ。駅そのものもまるで工事の途中で半ば完成しそのまま忘れられてしまったかのような不思議なもの。ホームの草の生えていない裸の斜面の下を、これもまた草の生えていない砂利道が続く。周りの田圃はまだ青々としているがすでに稲穂が重く垂れ下がり、刈り入れももう間もなくという感じである。
ちょっと困ったのは路線の東を通る国道の騒音が意外に大きく、反対側の山際まで下がってもかなり大きく聞こえてくることだ。路線沿いの県道を北に進むと田代あたりで山が低くせり出し、その周りを川と路線と道路が大きくカーブして走るところがある。川を渡って田代の斜面あたりまで行けば国道は別に切り通しになった山の中を走っているので騒音は避けられるはず。しかし実際に大回りをして橋を渡って行ってみると、騒音がさえぎられる場所は意外に少ない。それにトンネルからも離れすぎて、周りに間を埋める音も少ないので、ノイズっぽい間ばかり多い録音になる。まだ時間は十分あるので国道に出て南に向かってみた。
渡川の駅を少し通り過ぎた辺りで阿武川沿いの農道に下りると、国道の下の迫り出した斜面が音を遮っていて意外なほど静かである。すでに車が一台止めてあって跨線橋の辺りから撮影のようだ。ちょっと寂しいが渡川ではこの一人だけ。トンネルと駅の中間辺り、セミの声と小さな流れのある鉄橋の少し手前の農道の隅で録ることにした。16:00頃に鍋倉辺りから2回ほど汽笛の音。ただしこれは直前にやってきた救急車の音とのデュエットになってしまった。残念だがよくあることなので仕方がない。あとは長い静寂。他に何か音でもなければどうしようない時間である。肝心の通過は予想を上回る実にあっけないものだった。跨線橋をくぐって見えなくなった辺りで一声。多分トンネルの直前である。騒音が大きくなるかもしれないが、もう少し路線に近付いてトンネル寄りで録れば良かったかも知れない。
日暮れまでにはまだ十分時間があるがすでに8月も中旬、これから仁保に行って二反田辺りまで歩いていると日はとっぷりと暮れて真っ暗だ。渡川も道路を離れて西の山陰に回り込めば騒音は避けられそうだ。取りあえず駅の少し南側から山道を上ってみると雀脅しの音も聞こえていい雰囲気だ。ただ国道の騒音がバックグラウンドノイズのように何処までも付いて回る。30分ほど録音して山を下り阿武川沿いに西へ進む。風が次第に強くなり空一面の雲が荒々しく流れている。雷は鳴っていないようだがなんとも不気味な天気だ。この先大丈夫なんだろうか。途中栃谷川が流れ込んでいる所から山道を少し上ってみた。時々阿武川沿いの県道を車が通るのがうるさいが、薄暗くなった山道をあまり奥まで入って行く気にはなれない時間帯だ。ここでも雀脅しの音が聞こえてくる。SLの録音の時も聞こえていたので、本体がこの辺りにあるのだろうと考えていたがこれは違っていた。谷間を川が流れているだけの何もない場所である。いったいどこから聞こえてくるのだろう。家に帰ってから地図を調べてもやはり分からなかった。
暗くなるまで録音していったん山口に向かう。渡川には売店はなく仁保ではすでに閉店、食料の調達である。こんなこともあろうかと今回初めて軽微な非常食料を準備してきたのだがちょっと物足りない。なんとか山口駅の売店の閉店間際に間に合ったのは幸運だった。近くには他に夜間開いている店は見当たらない。
21:47仁保に到着。幾分涼しいが今年はまだ夏の夜だ。ふと思い出したことがあって空を見上げた。実を言うと生まれてから一度も天の川を見たことがないのである。視力が悪いとか鳥目というわけではない。空だって今と違って昔はずいぶん暗かった。間違いなく見えていたはずなのである。多分何か重大な思い違いをしていたのだろう。そうして改めて仁保の空を見上げて驚いたのは星の多さだった。
段違いというより桁違い、2桁かもしかすると3桁くらいの差がある。わが家で見える星なんて今は駄菓子屋で売っている金平糖の数ほどもない。峠を越せば宮野の町並みが見え、すぐ下には国道が走っている。決して良い環境ではない。降るような星とまではいかないがそれでもその差は圧倒的だ。結局天の川は良く分からなかったが、一度どこかで本当の星空を見てみたくなった。近くは美星町あたりに天文台もあるので、名前どおりの星空が見られるかも知れない。
Sample2.mp3 1分59秒 2.28MB 仁保の出発の汽笛から通過まで。あまりにも長くなるので途中をカットした。仁保への入場から二反田のトンネルに消えていくまでは10分以上に長さなる。せっかく取り入れた流れの音も少々耳障りになってしまったようだ。人工ヘッド"Alqays"とTCD-D100で録音。(すべての音響効果をOFFにして、ヘッドフォンでお聞き下さい / Please turn off all of sound effects and use a headphone)
翌朝はまだ暗いうちに出発。裏道を通って池の辺りで何度か留まって録音しながら谷の奥に向かう。すでに最盛期を過ぎたのか、ヒグラシの合唱も夕暮れ時のような感じで、山がひっくり返るようなすさまじさはない。かなり日も高くなった頃、二反田の草に覆われたの田圃のある辺りまでたどり着くと、「感電注意 猿対策の高圧電流通電中」の札が電線の張られたイノシシ除けのトタン柵に付けてある。もっとも高圧といったって高々50V位のものだ。山側には昨年のままに「クマに注意!!」の看板がある。そして山の斜面では今まで聞いたことのない怪しくも悲しげな鳴き声。しかし谷の奥の廃屋になった民家の辺りではなにやらガラガラと物音がしている。近辺の人が来て何か作業をしているらしい。これなら安心と思ってどんど歩いていくと、とつぜん前方の路面を4、5匹の茶色い物体が横切って山の方に駆け入った。
ニホンザルである。さらに進むと廃屋のある辺りからもつぎつぎと駆け出して山の方に入って行く。どうやら物音は人間ではなく、サルの立てる物音だったようだ。実際に目にした数や木の動きと鳴き声からすると少なくとも十数匹、多分もう少し多いはずだ。面白いので道端にマイクを立てて録音してみたが、人なれしていない野生のサルらしく山に入り込んでしまって姿を見せない。
そのうち車が一台やって来たが、何か気に入らないのかすぐに帰っていく。しばらくするとまた3台やって来て、これはそのまま廃屋の近くに駐車し山の中へ消えていった。この辺りはトンネルが連続しているので、そちらからの撮影だろう。でも通過までにはまだずいぶん時間がある。こちらもそろそろ切り上げていったん駅まで戻り、山線側に向かうことにする。帰り道の中ほどで地元の人にSLを撮りに来たのかと聞かれ、親切に線路に上がる道を教えてもらった。前回来た時には線路側から見ても気がつかなかった道がもう一つあるらしい。
駅で飲み水を補給して再び谷に向かう。昨年に比べれば今年はまだまだ猛暑というほどではない。水の消費量がまるで違っている。教えてもらった道を上っていくと以前たしか通ったことのある道だ。ただしどこから線路へ出るのかまったく分からないのも前回と同じ。もう少し詳しく聞いておけばよかった。面倒なので路線に近そうなところから山の中を突っ切ることにした。いったん中に入ると薄暗く下草もないが結構歩きにくい。最後は50度の斜面をよじ登って路線に出てみると、教えてもらった道の出口はさほど遠くないところにある。帰りはこちらを下りてみよう。
まずは録音の場所を決めなければならない。しばらく線路沿いに歩き回っていると小さな谷川があったので、少し線路から距離を取ってこの川の傍にマイクをセット。仁保の方向の見通しもまずまずだ。むやみに山に立ち入るのは良くないのだが少なくともカメラマンは来ることのない場所である。撮影は反対の谷側から。すでに一人三脚を立てて待ち構えているので、その前方の視界に入らない場所に身を潜める。
仁保への到着は今回は期待した通りのものだった。いささか無分別に汽笛を鳴らして入場。前回とは大違いである。この辺は時期的なこともあるが乗客やカメラマンの影響も大きいのだろう。出発の汽笛はなぜか大きく2回。C571とC56160なのか。音はそっくりだがC56160は少し小さく音高があまり上昇しない。缶の圧力の差?。ただ木戸山トンネルを出てから二反田にさしかかるまでの間は長い沈黙。最後に短い一声を残してトンネルに消えていった。マイクと路線との距離はもう少し詰めても良かったかもしれない。
あとはもう録音を続けても仕方がないのだが、カメラマンが引き上げてからしばらく待ってこちらも引き上げである。帰りは来た時に路線側から確認した道を下りてみた。通りにくい所はないが山の中をうねうねと曲がりくねって続き、やがて出てきたのは思いもよらないとんでもない場所だった。下から上がって行ったのでは到底道があるとは思えない、わき道をずっと入って行った畑の隅の全く目につかない場所である。これではいくら詳しく教えてもらっても分かるわけがない。次は篠目の予定だ。
まだ十分時間があるので再び二反田の辺りまで出かけてみると、またまたサルがたむろしている。しかしテキもサルもの、農家にとってサルはテキでもある。こちらが目にする前に気付いてとっとと路上から山に去っていく。どだい急にやってきて録音なんてしてみようというのが大きな間違いなのである。それでもしばらく川縁でじっとしているとまだ若い猿らしい2匹が姿を見せた。列車の時刻も近づいたので程ほどに切り上げる。
駅に帰り着くとすでに二人のカメラマンが大汗をかいて休息を取っていた。中年とお年寄りの二人組。前日は篠目で見かけたが、今日は仁保病院の辺りまで行っていたらしい。かなりの重装備で足にはマムシ避けを巻いている。普通に歩けば往復10kmほどの距離、なかなかの気力と体力である。もしかしてどこか山の中を通る近道もあるのだろうか。
Sample3.mp3 1分28秒 1.68MB 仁保は二反田の昼下がり。サルの声が聞こえるが、みんな山に入ってしまって、ほとんど牧川川の流れとセミの声ばかり。せめて1週間くらいかけて無人で長時間録音しないと無理だろうな。人工ヘッド"Alqays"とTCD-D100で録音。(すべての音響効果をOFFにして、ヘッドフォンでお聞き下さい / Please turn off all of sound effects and use a headphone)
14:13篠目に到着。とりあえず近くの売店で昼メシをゲット。当方の品位を大きく揺るがすその内容が非公開であるのは無論の事だ。去年の夏に大規模な拡張工事中だった川沿いの道路は出来上がり、すっかり風景に溶け込んでしまっている。まだ時間があるのでしばらくセミの声でも録ってみたが、風が強くすぐに鳴き止んでしまいどうしようもない。カメラマンも次第に増えてきて、西側の畑に数人が来ている。
今回は比較的低い位置で、しかし鉄橋よりは上側で録音、路線の両側を通る道路からはできるだけ距離を取りたい、ということで鉄橋の少し上の東側の畑の畦道のそばにセット。線路脇にカメラマンが一人だけいる。こちらも撮影場所を探さなければならないが、マイクをセットした側はあきらめ、西側の畑のずらりと並んでいるカメラマンの一番端にお邪魔する。いつの間にか人数は増えてすでに10人くらい。
篠目への到着はまずまず期待通りだった。ところがこの期に及んで車が何台も慌ててやって来た。たぶんSLを追いかけて撮影しているのだろう。畑に居並んだカメラマンは総勢15人になった。ボクは相変わらず一番端っこだ。篠目駅の出発はこれもまずまずだか、田代トンネルの前では短く2回だけ。これはちょっと期待はずれだった。カメラマンは撮影が終わればすぐに帰り始めるので車の音を心配したが、近くに停車した車の持ち主がなかなか戻ってこないのは幸いだった。機材を片付けるとあとはどこかに寄り道して録音しているほどの時間もない。のんびりと遅い午後の陽射しを楽しみながら駅に向かう。
17:33篠目発。夏の夕暮れ時、車窓を通り過ぎる風景はどこでも魅力的だ。新山口に着くとやってきた新幹線にまたまた驚かされた。これでいいのか言いたくなるような恐ろしいほどのガラ空き状態である。小心なボクはせいぜい欲張って一人前の席を目いっぱいぶん取ってくつろぐ。それでもやはりトンネルの多い山陽新幹線の旅は、退屈の中をひたすら疾走しているようなものだ。退屈は旅先からわが家にまで付いて来る。いちど時間があればローカルな路線でゆっくり旅してみたい。今回はワンシーンがかなり長いものになってしまった。当然音のない長い時間ができるわけだが、存念ながらその空隙を埋めて周囲の環境を演出してくれる音には恵まれなかったようだ。風は気にしないのでウインドスクリーンは使わないのだが、さすがに2日間続いた強風はちょっとどうもといった感じた。どのみち木や草のそよぐ音は避けられないし、音場の劣化の原因や不自然な感じにもなる。とはいっても細かい音は聞こえなくなるし風に流されてしまう、強過ぎる風はやはり無いに越したことはない。
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