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夏の旅
2006年8月5日,6日
夏はいよいよ本番、わが家の極悪猫も快調だ。またしても突如として日取りが決まり、大慌てで予定を立てる。わずか一日半の日程で相変わらずの近場である。尋ねる場所は篠目、仁保と前回と同じだが、最後は少し場所を移して一駅手前の徳佐側から録ってみることにした。篠目は下見がてら線路沿いに谷を登り、仁保は山線側で、徳佐は騒音の少ない駅の西側で場所を探すという予定である。
朝から上々の天気の真夏日で気温も高い。いい旅になりそうだ。10:34に出発。新幹線の苦手なオイラは退屈で気詰まりな客席を避けて相変わらずのデッキ暮らしだ。新山口で山口線に乗り換えてホッと腰を下ろす。篠目には14:13到着。
今回は谷を登って様子を見てみようというので、駅前の通りを南に向かい橋を渡ると、なんとここの道路が拡張工事中。踏み切りの手前が工事の終点で、そこの看板には迫田篠目停車場線道路拡張工事とあるが、どうも半端な拡張工事ではないようだ。このままここでプッツリと終わるのも何だか唐突な感じがするので、もしかすると何年か先には山を越えて県道123号線あたりと繋がるのかもしれない。
この踏切を渡って山道を進んでいったが、線路から離れてどんどん深く山に入って行くのであわてて引き返した。地図を持たないでむやみに歩き回るのも程々にしないと危ない。もう一つ上の踏切で線路を越えて川を渡ると、今度は間違いなく線路沿いに谷を上がる道だ。
Sample1.mp3 1分27秒 1.66MB 録音した位置が少し高く、見通しが悪いので、どうしても直接音が木々で遮られてしまう。線路脇に出れば避けられるが、今度は眼前といった感じで距離が取れなくなる。人工ヘッド"Alqays"とTCD-D100で録音。(すべての音響効果をOFFにして、ヘッドフォンでお聞き下さい / Please turn off all of sound effects and use a headphone)
田代トンネルまであと半分といった辺りに来ると撮影ポイントがあり、すでにカメラマンが3人ほど来ている。時間が十分あるのでそのままずっと上まで行ってみたが、土地が開けて田んぼと集落(といっても家が2軒あるだけ)がある辺りまで来ると線路が見えなくなった。いつの間にか田代トンネルの入り口を通り過ぎてしまったらしい。道は谷の反対側を通る道と合流して、まだしばらく先まで続いているようだ。
車の通行はまったくないが、カメラマンは撮影が終わればすぐに引き上げてしまう。その車の音を避け、線路に対して適当な位置が取れる場所、というとこれが意外とない。撮影ポイントから上か、むしろずっと下って2つの踏切の下辺りになってしまう。草を掻き分け木の枝を薙ぎ払って山の中に入って行けば無いこともないが、マムシに食われたり谷川に転げ落ちたりする危険きわめて大。だいいちこういう場所でそんなことをすればあきらかなマナー違反だ。結局撮影ポイントの100mほど上の車の退避所の端で録音することにした。
通過の15分ほど前、谷の下からバイクに乗った人がやってきて集落のところで折り返し、谷の反対側の道を下っていった。撮影者の巡回監視のようだが、最近なにかトラブルでもあったのかな。写真を撮るため撮影ポイントの少し上に移動。ここでもカメラマンが一人待機しているが、せっかくだから画面にご登場いただこうとその後ろで撮影ということにする。
C571の通過は実にあっけなかった。汽笛もなく姿をあらわし静かに通過、トンネルの前で短く一声を上げただけである。なんだかスカを食らったような気分だ。田代トンネルに入ってからはまったくの無音。夏の日中は音が遠くへ飛ばないのでこういう状況ではまったく面白くない。谷の反対側からの方がまだ良かったかも。どのみち無駄なのだが、仁保に到着する頃まで待って引き上げる。カメラマンはすでに全員帰ってしまって山の中はすっかり無人である。駅まで戻るともう上りの列車の到着時刻も近く、例によって駅前の売店で食料と切符を調達。食料の内容はいつもながら当方の品位にかかわる機密事項だ。
まもなく到着した列車で仁保に向かう。途中撮影ポイントや山道を確認。列車の中から何となく見ているとなかなか見分けがつかないが、あらためて眺めてみて初めて様子がわかるという感じた。田代トンネルを抜けると左手の谷に仁保病院が見える。この辺りも撮影ポイントの一つになっているようだ。ただすぐ次のトンネルに入るので録音としてはちょっと物足りない。
17:43仁保に到着。まだ時刻も早いのでヒグラシの声でも録りに谷の奥まで行ってみることにした。帰りは夜道になるが、まあいいか。最後の民家から200m程奥に入ると道の傍に小さな檻があって、倒れた赤い立て札にはサル捕獲用と書いてある。あまりありがたくない状況だが、さらに向こうにはこれも今は使われていないイノシシの捕獲用と思われる大きな檻が置いてある。周りを囲む柵とゲートだけで蓋というか屋根がなく、牛でも4〜5頭は囲っておけそうな大きさだ。良く分らないのはこれで捕まえたあとどうするのかということ。
イノシシの捕獲をしていた人の話では、ずっと小さい直方体の鳥籠状の檻で捕獲し、長い柄のついた刃物でグサリと一突き、息の根を止めるのだそうだ。あとは美味しいお肉になる。万一やりそこなって逃げ出したりすれば大変である。手負いのイノシシはとても恐ろしい。牙に掛かって命を落とす人も少なくはないという。こんなだだっ広い柵だけの檻で大丈夫なのだろうか。
そんなことを考えながら谷の奥までもう少しのところに来ると、さらにイヤなものが目についた。右手の畑の上の白い立て札に曰く「クマに注意!!」。クマ?、このまえ来たときはこんなものなかったゾ。いくらスペースがあるからって、「!」が2つも付いているのはなんとも思わせぶりだ。ひょっとすると夜な夜な農家の庭先までお出ましになるのかもしれない。陽はとっくに落ちてあとは暗くなっていくばかり、少し下って民家の近くで録ることにした。安全のほどは到底請け合えたものではないが、気休めとしての効能は絶大。この上なく安心である。
夏もすでに下り坂にさしかかったのか、ヒグラシの声は閑散としていて、谷川の音ばかりが大きく、ニイニイゼミはなかなか鳴き止まない。暗くなるまで30分ほど録音して谷を下った。仁保の夜は時に肌寒さを感じるほどで、とても真夏とは思えないほど涼しく、風が心地よい。
Sample2.mp3 1分06秒 1.26MB ヒグラシの声も8月に入ると最盛期を過ぎてしまうようだ。なんだか奥行きがないと思っていたが、よく考えれば川の向こうはすぐに50度近い山の斜面だった。もとは住居もあり、人も入っていた二反田の辺りは、少しずつ山に戻ってい.るようだ。人工ヘッド"Alqays"とTCD-D100で録音。(すべての音響効果をOFFにして、ヘッドフォンでお聞き下さい / Please turn off all of sound effects and use a headphone)
8月とはいってもまだ夏の朝は早い。午前5時前、西の空が明るくなるにつれて徐々にヒグラシが鳴き始めた。ただ時期としてはもう盛りを過ぎてしまって、山が騒音の塊と化すような合唱には程遠く、個々の鳴き声が聞き分けられる程度にまばらだ。駅で時間待ちをするのも勿体ないと、陽が差し始めたころ、また牧川川沿いに二反田の辺りまで谷を上ってみる。べつに何か特別なものでもあるわけではないが、なに朝夕のちょっとした散歩代わりだ。ヒーコラサッサ。
一度駅に戻ってから浅地川沿いに山線に入ってみようと考えていたのだが、帰り道でふと気がついた。そうするとつぎの徳佐への列車にはとても間に合わないのである。線路沿いに歩いて帰ると1時間近くかかってしまう。あきらめて駅で録ることにの急遽変更。といっても仁保駅では前回ひどい目に遭っている。取りあえずホームは避けて、駐車場の騒音を考えると下りの線路を隔てたホームの向かいの山側か、あるいはずっと離れて駐車場の西の山際だが、前者は十分スペースはあるがちょっとまずい。ここで撮影をしている人を見ないので一応立ち入りは禁止なのだろう。駐車場の西は跨線橋の車の音を拾うし、ホームからは遠くなりすぎる。駐輪場の下の柵の中がわりと良さそうだが、ゲートが閉まっていてここも立ち入りは出来ない。あれこれ考えてみたが、結局この奥まったゲートの前から録ることにしてマイクをセットし時間待ちである。
ところがこれがいけない。やはり到着の直前になると見物の車が次々とやってきた。しかもいくつかの車はクーラーを入れたまま駐車場でアイドリング状態。これがなかなかにやかましい。ついにホームの陸橋の上に逃げ出した。音の広がりとしては狭くなるが少しはましだ。
到着時刻になってやって来たのはまたしても通常の列車。やまぐち号の方は跨線橋の直前までやってきて始めて存在に気がつく有様だ。実に静かな入場である。停車位置は前回よりもや5mほど南寄りになった。まず通常の列車が発車。煙突の煙が次第に濃くなるにつれ風向きが変わり、とうとう駅全体が煙に包まれて暗くなってしまった。二酸化硫黄の匂いが鼻を刺す。
やがてこちらも発車という頃、あわてて陸橋を下り民家の下の杉林まで逃げ出した。これはまあまあといったところ。発車の汽笛はまだちょっと厳しい。木戸山トンネルの通過は少し間が空くが、車の騒音もほとんどなく、山線に入ると小さいながら走行音と汽笛が何回か快く響く。
といってもこれは耳で聞いての話で、録音となるとコトはまったく別だ。汽笛にレベルを合わせると周りのセミの声でさえ−40dBから−50dBになる。遠くを走るSLの走行音など多分−60dBを切ってしまうだろう。わずか6bitの世界である。今時これじゃどうしようもない。
こういう長い距離ではいっそのこと、数名でチームを組んで要所に陣取りリレー式に録音、シームレスにつないでいくと面白いかもしれない。
11:54の下り列車で徳佐に向かう。窓の外は相変わらずのどかな光景が続いているが、北上するにつれて一つだけ明らかに変わっていくものがある。それは水田の稲で、稲穂がしだいに大きく顔を出し、実が入って重く垂れ下がっていく。9月の終わりか10月の初めにはもう収穫なのだろう。民家の様子からそんなに大雪というわけではなさそうだが、近くにスキー場もあるし、そこそこの積雪にはなるようだ。
12:39徳佐に到着。取りあえずは下見ということで一巡り歩いてみることにする。駅の東側は住宅地で、緩やかな傾斜の道を上がると500mほど向こうに国道9号線が走っているのが見える。西側は水田で人家はまばら、交通量も少なく、道路から距離が十分取れそうだ。駅から鍋倉寄りでは国道315号線が線路を跨いで走っていて、このあたりが限界になりそうだ。列車から高校の建物が見えるので音として取り入れれば面白そうだと思っていたが、実際に歩いてみると意外と遠い感じだ。線路との間に道路も走っていてる。どのみち今は夏休みなので様子が分らない。今回は亀山第一踏切辺りでと決めて、いったん駅まで引き返して飲水の補給。このころからなんだか雲行きが怪しくなってきた。
Sample3.mp3 1分25秒 1.63MB 仁保駅の朝である。ヒグラシの合唱も終わり、下の農家から聞こえてくるらしい微かなざわめきが心地よい。人工ヘッド"Alqays"とTCD-D100で録音。(すべての音響効果をOFFにして、ヘッドフォンでお聞き下さい / Please turn off all of sound effects and use a headphone)
再び踏切までもどって場所を探していると雨である。だんだん激しくなる一方なので踏切のすぐ傍の物置小屋の軒を借りて雨宿りだ。降ったり止んだりといった具合で、空には晴れ間も見えるが、一応夕立のようだ。ついに雷が鳴りはじめ、いよいよひどい状態になってきた。船平山側はすでに雨で真っ白にけぶっている。とにかく落雷が多く、次から次へと周りの山にビシバシ落ちる。それも雲の様子からはとても落ちそうにないような方角になんの脈絡もなく落雷する。なんとも安心できない状態だが周りを見回しても避難できそうな安全な場所はない。
雨宿りをしている小屋がン十年無事なんだから大丈夫だろうと高をくくっていたら、突然近くでパチパチという音がした途端、後ろの方にドカンと一発。300m程の距離である。これにはさすがに薄気味悪くなった。通り過ぎたと思うとまたやって来るという波状攻撃の状態が続いているが、やはりどこかに晴れ間が見えているのは何とも奇妙だ。
ようやく船平山あたりの山々が見え始め、雨も穏やかになった頃、突然後ろから声をかけられた。肩に小型のカメラバッグ、雨傘を手にした男性である。近くからの様子だが、この雷雨の中を傘をさしてやって来たのだろうか。ひどい夕立ですねと声をかけたら、こういう天気もまたいいもんですよ、といかにも日常茶飯事といった感じで平然と言われてしまった。こちとらビクビクものなんだけどな。
陽射しも回復してきて西日がまぶしくなった。まもなく通過の時刻だが、駅の方を振り返ると後ろの山々がまた雨で白くなり始めている。この天気、帰るまで大丈夫なんだろうか。録音は鉄橋から少し船平山寄りの道路と線路の間にマイクをセット。人間は撮影のために線路を渡って西側に移動する。昼過ぎには少なかった車は少し増えたようだ。通過の直前もう一人のカメラマンが後ろにやってきたが、こちらも近辺かららしく軽装備である。
S字カーブにさしかかると突然短く一声。これは撮影者に対する警告のようだが、マイクには少し近すぎた。次は踏み切りを過ぎた辺りで。すでに絶気しているようでブラスト音はない。汽笛は西の山に幾重にも反射してとてもきれいだ。駅では長い絶叫だか、期待に反してあとは無音である。駅に戻る頃には後ろの山は雨で真っ白になり、再び身の危険を感じるような落雷が始まっていた。
というわけで、なんだか今回はスカばかり食らったような結果になってしまったが、ともかくも短い2日間にもかかわらず夏は十分に満喫といったところ。あらためて実感したのは山口線におけるカメラマンの存在の重要性だ。良くも悪くも録音に対する影響は大きい。時には障害となることもあるが、またその存在なしでは録音もずいぶんと詰まらないものになってしまうのは確かだと思う。

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