2015年9月15日 一雨ごとに夏が遠くなっていく。今さらなことだがすでに9月も半ば、もう取り返しのつかないほど夏は遠くなってしまったのである。今日は朝から申し分のない秋晴れ、早速出かけたがなにしろ9月である。行く先々で予定変更。1時間近くうろつきまわって辿り着いたのは結局おなじみの場所。録音を始めたものの1時間経って気が付けば録音機はポーズ状態。これでは何をやっているのか分らない。すっかり気を悪くして一山越せば、なにやら楽し気なエンジンの音。田んぼの中でお年寄りがポンプで揚水作業をしているらしい。それではと早速押しかけて図々しく録音させていただいた。 |
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Sample.mp3 |
2分21秒、2.70MB 前半は斜め前方から、後半は斜め後方から。今は随分のんびりとした音に聞こえるが、当時の人にはどう聞こえたのだろう。発動機の上から白く立ち昇る湯気は沸騰する冷却水。人工ヘッド"Pelias"とPCM-D50で録音。(すべての音響効果をOFFにして、ヘッドフォンでお聞き下さい / Please turn off all of sound effects and
use a headphone) |
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お話によるとこのエンジン、というより発動機は昭和18年製。1943年だからすでに72年間現役で動いていることになる。両側に大きな重量級のフライホイールの付いた古色蒼然たる水冷式4サイクルエンジン。下部には丈夫な木の台座が取り付けられ、これも今はほとんど見かけなくなった川の中に立てる円筒形の大きなポンプを平ベルトで駆動している。昔は籾摺り作業であちこちに担いで行かれ大いに活躍したらしい。驚いたのはプラグやイグニッションのコードを除いてほとんど当初のままであること。プラグは規格が合わないのでアダプターを介して取り付けられ、コードは赤い合成樹脂製のものに替えられている。主軸の軸受けはメタルでグリスカップで給油。ピストンは上部に付いた硝子製のオイラーで油を点滴している。油断という言葉そのままでうっかりできないが、ちゃんと使えばずいぶん長持ちするものだ。イグニッションは発電機構が往復式。マグネットの吸着力とバネを利用して急激な磁束変化を起こし発電、これを断続して2次巻線に高圧を発生する仕組みのようだが今一つよく分からない。アメリカ製とのことだが銘板を見る限り日本製。当時は戦時中だったから輸入なんてできなかったのではないか。点火時期を調整するハンドルがあって逆転も可能らしい。吸気と吐出のバルブは後端に露出していて吸気バルブはバネだけ。クランクシャフトを半分に減速して吐出バルブとイグニッションをカムで駆動。再び増速してガバナーを回し、キャブレターに連結して速度調節をしている。冷却水を川から汲み取って上面の大きな穴から流し込み、専用のハンドルをクランクシャフトに取り付け、少量のガソリンをキャブレターに入れて起動。回り始めると燃料を常用のものに切り替える。定格速度550rpm、2.5馬力。実際に計ってみると400rpmくらいで回っていて実にゆったりしたもの。近くで聞くと排気音が結構やかましいが、ある程度離れるとむしろ最近のエンジン付きのポンプよりは余程静かである。昔は興味深げにいつまでも見つめていた子供もいたに違いない。またいつか訪ねる機会が来るまでずっと動いていて欲しいものだ。 |
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